森から聞こえる、ヒタキやキジバト、ホオジロの声。

 それらに混じって、遠くから、タアンタアンと音がする。

 レインはじゃがいもを掘る手を止め、丘の方へ目をやった。第二都市から逃げてきた時、越えてきた丘だ。あの時、 朝日の中で金色の靄と瑞々しい緑に包まれていた、丘を覆う森は、今、高い秋空の下で紅葉に燃えている。

 真っ青な空の下、深い紅色に鮮やかな朱色、照り輝くような橙色が、緑の葉と交じり合う。まるで、森が懐深くに 隠し持っている鮮やかな百彩を、ほんの少しだけ出して見せてくれているように。
 レインは思わずぽかんと口を開け、しばし、その美しさに見惚れる。

 一度見てしまったら、なかなか目を逸らすことが出来ない。 そして見る度に考えるのは、世界は何故こんなに美しいのだろう、と言うことだ。その答えを見つけるのは、ひどく難しい。 見つかった、と思っても、次の日に、全く別の答えが出ることもある。

 たった一つはっきりしているのは、鳥の声も木々の紅葉も、人間の為にあるわけではないということだ。 鳥は人間に聞かせる為に歌っているのではないし、木々は人間に見せる為に紅葉しているわけではない。それらに触れた人間が、 勝手に美しいと思い、感動するだけのこと。

 逆に言えば、それらを美しいと感じる心が、自分に備わっているから、それらは美しいのだ。自分が四足の獣だったら――
 もしかしたら、世界はこんなに美しくなかったかも知れない。

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