レインはベッドから起き上がると、窓辺に立ち、庭を見下ろした。

 犬たちがトラックの周りを、興奮したように走り回っている。
 トラックの荷台には、空ろに目を開いたまま、動かない鹿が横たわっていた。

「畑を荒らしていたのはこいつだ。この、尻の大きな斑点、間違いない」

見慣れぬベストに帽子姿のエッダの夫が、荷台の上で言う。その肩には、長い猟銃を引っ掛けている。

「うちで解体して、今日の猟の仲間のところへ持っていく。包丁、持ってきてくれるか」

「はいはい」

 レインは長いこと、死んだ鹿の目を見つめていた。遠くても、その瞳が、まるで生きているように潤んでいるのが、よく見えた。

 やがてエッダがバケツに大きな包丁を入れてやってくると、レインは窓辺から離れ、ベッドへ戻った。

 鉛筆を握ると、今度はすらすらと手が動いた。エッダたちの会話や、包丁で肉を切る音が、血の匂いと共に、静かな部屋を巡る。 その中心で、レインは何かに憑かれたかのように、鉛筆を走らせた。

 そうしてどれほど長いこと書いただろうか。
 ようやく鉛筆を置くと、手紙はノート三枚に渡っていた。レインは一度見直すと、ペンで清書し、丁寧に折り畳んだ。 それからもう一枚ノートを破って封筒を作ると、その中に手紙を入れた。
 最後に、封筒の表にルツの家の住所を書き、 レインは達成感と脱力感がないまぜになった気持ちで、封筒を眺めた。

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