しかし今日は、いつもならすぐに鳴き止む犬たちが、何故かいつまでも吠えている。不審に思ったレインはブラシ片手に、厩舎から首を出した。

 犬たちが、帰ってきた若主人の周りをぐるぐる回っていた。 早くも森の上へ落ちかけている太陽を背に、重そうなスポーツバッグを背負い、学ランを着たセムが、農場の門に突っ立っていた。

 その顔を一目見て、彼に何かあったことを察したレインは、八つ当たりされないよう、いそいで厩舎の中へ戻った。 牛たちがブラッシングをせがむ声を背で聞きながら、窓からセムの様子を窺う。と、ホイールローダに飼料を乗せてやってきた父親が、 「お帰り」と息子に声をかけた。

「お前明後日から試験なんだろ。今日はこっち手伝わなくていいから、勉強しろ」

 セムは憂鬱そうな顔で、車の上の父親を見上げた。

「どうした。そんな顔しなくても、ちゃんと勉強すれば、一学期みたいに全教科赤点てことにはならないだろ」

セムは何か言ったが、車の音が五月蝿くて聞こえないようだ。父親はホイールローダのエンジンを止めると、「何だ?」と尋ねた。

「野球部の先輩たちが、試験明けの休み、うちに来たいんだって」

 たちまち、父親の表情は難しくなった。運転席から飛び降り、父親は息子の前に立つと、腕組みした。

「どうして、そんな話になったんだ」

セムは犬に目を落とし、体に似合わぬぼそぼそとした声で呟いた。

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