墓場に何歩も足を踏み入れない内に、不意に背筋が寒くなり、老人は思わず立ち止まった。

「おおい、誰かおらんのか」

 と、少し離れたところで、ガサ、とヒースの茂みの鳴る音がした。

 老人は素早く、音の鳴った方へランプを向けた。

 ランプの赤い光の中で、老人が最初に見たのは、墓地の中央に立つ六角形の御堂だった。そしてそのすぐ近くに立つ、一つの墓石。 墓石の周囲の土は掘り返されていて、その中心には、ぽっかりと穴が開いている。穴からは、何かを引きずったような跡が続いている。

 唐突に漂ってくる、腐臭と、それよりも濃い、血の匂い。

 老人は思わず、ランプを取り落としそうになった。

 墓石の周りに、四人の人間が倒れていた。うつぶせになっている者も、仰向けになっている者も、皆ぴくりとも動かない。 彼らの周りには、割れたオルムランプが転がっている。

「お、おい……」

 震える手を伸ばした時、背後に人の気配がした。

 咄嗟に老人は振り向いた。

 狼の頭をかぶり、藍色の浴衣を着た子供が、オルムランプも持たず、じっとそこに佇んでいた。

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