ユーリの仕事は、通しの品の盛り付けだった。調理台の上にずらりと並んだ小鉢に、酢で甘く煮た葱と、紅葉型に切った人参を 乗せていく。盛り付けが完成すると、その端から、ホールのボーイがひったくるように盆に乗せて運んでいく。

「お前、この魚捌けるか」

 盛り付けの手が空いた隙間に皿洗い、ゴミ捨てなどの雑用をこなし、あっという間に数時間が経った頃、 一人のコックがユーリに声をかけてきた。

 ユーリは菜箸を手に振り向いた。コックが自分の太鼓腹に乗せるようにして抱えたクーラーボックスを覗き込むと、氷水の中に、 飛び魚のようなオレンジ色の魚が四匹沈んでいた。
 イジドールでよく食べた魚だ、とすぐにユーリは気づいた。全体的に毒があり、食べられる部分は少ないのだが、 上手く食べられる箇所を取り出すと、白身でありながら、とても濃厚で美味いのだ。

「客の持ち込みなんだが、ここらじゃ見たことねえ。適当に捌こうとしたら、毒があるから気をつけろと抜かしやがる」

ユーリは頷き、クーラーボックスを受け取った。

「気をつけろよ。お前が捌いたのを食って客が死んだら、残りを全部お前に食わせるからな」

 ユーリは無言で頭の頭巾を締め直すと、魚をクーラーボックスから取り出し、まな板に乗せた。よく研がれた包丁を選び、慣れた手つきで 刃を入れていく。
 あっという間に魚は細かく分解され、やがて取り出されたのは、頭にほど近い部分の、僅かな身だった。 四匹分全てが盛られても、その量はほんの一口か二口、と言ったところだ。

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