ユーリは驚いて口をつぐんだ。 タニヤの顔は、先までの能面のような表情から一転し、今にも泣き出しそうに歪んでいた。 「あんな奴と一緒に行きたくなんかない! どうせ、毎晩痛めつけられて、最後には首を絞められて殺されるんだから!」 「だったら、俺と一緒に来ればいいじゃないか!」 「無理よ!」 そう叫ぶタニヤの顔の片側が、金色に輝いた。 藤色がかった黒から、群青、薄水色、そして銀へ変化していく空と、海の境。そこから染み出すように、熱と光とが広がっていく。 お萩が、タニヤの手の中から落ちた。 水平線から差し込む朝日の中で、タニヤは瞳を潤ませ、ぐいと、長い前髪をかき上げた。 「言ったでしょ! 私は人間じゃないって」 初めてユーリの目の前にさらけ出された白い額。 そこには黒々とした文字で、『雌豚』と彫られていた。 ユーリは言葉を失った。 「……こんな顔で、一体どうやって、普通に生きていけって言うの……!」 明け染めていく世界に、全てを停止させるかのような、少女の悲痛な叫びが響く。 それでも太陽は止まらない。あっという間に、世界を朝の風景へ変えていく。情けも無く、容赦も無く。 二度と時間を巻き戻すことは出来ないと、告げ知らせるように。 -------------------------------------------------- |