「違う!」

 イオキは叫んだ。

 イオキを抱き起こした警官も、子供たちも、遠巻きに眺めていた大人たちも、驚いて、動きを止める。洞窟の中が、まるで 本物の宇宙のように、静まり返る。

 イオキは体が震えるのを、止められなかった。
 漆黒の瞳を苗床にして、胸の中に生え、絡み合い、己の体を覆う黒い蔦が、問答無用に毟られ、光を当てられる。 その、身を引き裂かれるような痛み。 そこに、生まれて初めて滅茶苦茶に殴られたショック、理不尽な暴力を受けた怒り、秘密を突かれた恐怖が混じり合い、膨れ上がり、 どうにかなってしまいそうだった。

 何も知らない癖に! 何も知らない癖に! と心の奥で叫ぶ声が、張り詰めていた最後の糸を、ぷつりと絶ち切る。

 助け起こそうとする警官の腕の中で、イオキはわっと泣き出した。

「勿論、違うに決まっているとも。君みたいな子供が、あんなこと出来るはずがない」

 腕の中で泣き出された警官は、必死にイオキを慰めながら、子供たちへ厳しい顔を向けた。

「どうしてそんなことを言うんだ? この子に、そんなことが出来るはずないじゃないか。第一、死体を持って行かれたのは事実だが、 それが喰われただなんて、そんなのは根も葉もない噂話だ」

 子供たちには、イオキを泣かせたからと言ってうろたえる様子もなく、むしろ、泣かせてやったという優越感が漂っている。 警官の言葉に、白けたような空気さえ、ある。

 警官はそのまま、非難の視線を、大人たちに向けた。

--------------------------------------------------
[627]



/ / top
inserted by FC2 system