「あなた方も何故、黙って見ているんです?」

「そうは言ってもね」

 湖から頭だけ出して経緯を眺めていた鉱夫が、肩をすくめた。

「そいつが来てから墓荒らしが始まったのは、事実なんで」

そう言うと彼は、大きく息を吸い込み、湖の中に潜っていった。

 それが合図になったかのように、人々は、己の仕事に戻り始めた。男たちは湖に潜っていき、子供たちは色とりどりに輝く 水の袋を手に、散らばっていく。

 苦虫を潰したような表情で、警官は彼らを眺めていたが、やがてイオキの嗚咽も収まってくると、「さあ、家まで送ろう」と 肩にマントを掛け、立ち上がらせた。

 イオキはしゃくりあげながら、黒いマントを風になびかせ、警官と共に町を下っていった。家に着き、扉を開けると、 空っぽの教室の真ん中に、テッソが背を向けて座っていた。
 子供たちの作文を添削していたテッソは、振り向いて眉を顰めた。

「お子さんを送らせて頂きました」

 警官からイオキへ視線を移すと、テッソはため息をついて立ち上がり、こちらに向かってきた。

「それは、私の子供でありません」

 そう言ってイオキを見下ろすと、「二階へ上がって消毒しなさい」と命じる。

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