「それで先ほど、自分の子供ではないと仰っていたのは……?」

「あの子は元々、海で遭難していたのを、五十五市の漁師に助けられたのです。けれど名前以外何も覚えておらず、 厄介者扱いされていたのを、私が引き取りました」

「記憶喪失ですか?」

「多分。しかし、いずれ思い出しますよ。そうしたら、親元へ送ってやるつもりです」

「ですが、何故縁もゆかりも無い子供を引き取られたんです?」

答案を読むように、テッソはすらすら答えていく。

「私には、本物の息子が一人います。難病で、常に誰かが世話してやらなければいけません。私はこうして家で仕事をしていますが、 それでも常に側に居てやれるわけではないので、代わりに看病してくれる人間が、必要だったのです」

「そうですか…… それでは失礼ですが、祭りの晩のことを、聞かせて頂けますか?」

 するとそこで、初めて僅かに沈黙があり、はっきりとテッソの調子が、不機嫌に変わった。

「何故そんなことを答える必要が? まさかあなたも、ここの非理論的な住人たちのように、イオキが犯人だとでも思っているのではないでしょうね」

「まさか」

警官は、慌てたように言った。

「勿論、そんなことは思っていませんよ。けれど、この質問は、皆さんにしていますので……」

テッソは軽蔑したように鼻息を吐いた。

「祭りの晩は、あの子に少し小遣いを持たせて、町に遊びに出してやりました。どこでどう過ごしたかは、知りません。 私は息子と一緒に、家にいましたから」

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