イオキは慌てて振り向き、微笑もうとした。
 しかし同時に、テッソが大きな音を立てて、部屋の中に入ってきた。

「全く、くだらない。警察も、所詮田舎者か」

 そう呟いたテッソは、イオキの顔に目を止め、たちまち眉間に皺を寄せた。

「まだ泣いているのか」

イオキは塞がっていない方の目を、こすった。

「……子供に殴られそうだな。やり返したのか」

 イオキは首を振った。テッソは苦々しげに口元を歪めた。

「暴力を奮う方も奮う方だが、黙ってやられる方もやられる方だ。特に、君は男だろう。黙って反撃もせず、泣くなんて。 そういう態度を取るから、ますますやられると言うことが、分からないのか」

 イオキは僅かに目を見開いた。

 イオキにとって、悲しい時や嬉しい時、痛みを感じた時、涙が出るのは当たり前のことだった。 泣けばミトは慰めてくれたし、屋敷の使用人たちは心配してくれた。キリエだって五月蝿そうな顔はするものの、 「男なら泣くな」などと言ったことは一度もない。

 イオキがそのまま、涙で潤んだ瞳をじっとテッソに当てていると、テッソは苛立った声を上げた。

「そうやって泣いていれば、誰かが助けてくれると思っているのか? 子供の内はそうやって、その大きな瞳で見れば、 先の警官のように大人が助けてくれるかもしれないが、そんなこと、いつまでも通用しない。愛や憐れみを期待するな。 人間は誰しも、この広い世界を、一人で生きていかなくてはならないんだ」

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