しかしため息をついたところで、吐いた息がデザートに変わるわけでもない。
 食べ物のことを頭から振り払いつつ、壁の隙間から顔を離すと、レインは扉へ行った。

 大人なら屈まないと入れない程小さな木の扉には、外側から鍵が掛かっていた。エッダが、掛けていったのだ。 内側から開けることは出来ないが、 今にも腐り落ちそうな程古い扉なので、体当たりすれば、無理矢理開けられそうだ。

 そのことを確認したレインは、布団の上に戻った。 天井を見上げると、円錐状に積まれた石が、ところどころ欠けながら、頂点の暗がりに向かってそびえている。 レインは首が痛くなるのも構わず、灰色の石を眺めた。己の思考が、透明な蛇になり、その上を螺旋状に這い登っていく様子を。

 一晩中起きているつもりだったのに、その、目に見えない尻尾を捕らえようとしている間に、いつの間にか、眠りに落ちていた。

「あそこしか考えられない」

 レインははっと目を覚ました。

 最初は何故起きたのか、否、そもそもいつの間に眠っていたのか分からず、混乱した。だがすぐに、 本当に微弱な、辺りが寝静まっていなければ決して分からない程の、地面を伝わる微かな振動、石塔の外から聞こえてくる低い囁き声に、 気がついた。

「本当かよ? あんなボロイとこ。あんなとこにいるんだとしたら、本当に人間っつーより、家畜じゃねーか」

「しーっ。静かにしろ。犬に吠えられるぞ」

 来た。
 レインはリュックに手を伸ばし、壁の隙間から外を見た。

 大分位置が変わった月の下、中学生たちの一団が、影のお化けのようになって、 こちらに近づいてくるのが見えた。

--------------------------------------------------
[635]



/ / top
inserted by FC2 system