「中にいるんだとしたら、石の壁が結構ボロそうだったから、懐中電灯使って隙間から見えるんじゃないかな」

「明かり点けたら、犬に気づかれるんじゃないか?」

 レインは息を潜め、彼らが近づいてくるのを待った。

 中学生たちは、石塔から少し離れた場所で立ち止まった。皆背が大きい。男も女も。男はTシャツに短パン、女はパジャマの上に パーカーを着ている。一人は懐中電灯、もう一人は安物のカメラを持っているのが見える。

 先程までの、酔っ払いにも似た興奮は何処へやら、いざ石塔を前にして、彼らは不安な面持ちを見せていた。

「確認するだけだろ。さっさとやっちまおうぜ」

 ようやく三人の少年の中の一人が言い、残る二人は頷いた。
 と、眼鏡をかけた少女が小さな声を上げた。

「止めませんか?」

 少年たちは振り向いた。彼らの後ろで両腕を組んで立っていたもう一人の少女が、急いで眼鏡をかけた少女に近づき、「ちょっと」と囁いた。

「あんた、空気読みなさいよ」

「でも……」

上級生たちに一斉に睨みつけられ、眼鏡の少女はそのまま青い顔で黙り込みそうに見えた。が、次の瞬間、 月に照らされたその表情が、ぐいと張り詰めた。

「でも先輩。セム君の家の人にはすごくお世話になったのに、こんな、恩を仇で返すようなこと、良くないですよ」

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