カチリ、と懐中電灯のスイッチが入る音がして、石壁の隙間から、眩い光が、光線となって差し込んできた。

「見えるか?」

 少年たちの、ひそひそ囁く声がした。レインは奥の壁に背中をつけたまま、身動きせず、息もしなかった。懐中電灯の動きに合わせて、 光線の向きはちらちらと変わったが、奥までは届かなかった。

「駄目だ。暗くて見えない」

「そこ、何が置いてあるの?」

「別に何もないみたいだけど……」

「一周してみようぜ」

 光源が、壁に沿って動き出す。木漏れ日のように、光が出たり入ったりする。レインは、光源と対になるように合わせて、 ゆっくりと壁沿いに移動した。

 石塔沿いに半周し、扉のところまで来ると、少年たちは扉に手をかけた。

「鍵かかってるけど、板が腐ってるし、体当たりしたら開けられそうだな」

そっとやんなさいよ、という少女の言葉に押されるようにして、少年たちは扉を押し始める。みし、みし、と、木の扉が、 まるで寝息を立てる獣のように、静かに膨れる。

 息を殺し、目を見開き、レインはその様子を見つめた。唇は乾き、握った右手には、汗が溜まる。久々に蘇る、この、追い詰められた 息苦しさ。何処からか漂ってきて鼻腔をつく、錆びた鉄の匂い。

 と、その時、羊の鳴き声がした。

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