少年たちの間から、レインは、セムが二人の少女を押しのけるようにして、石塔の外に立っているのを、見た。
 セムは裸足で、寝巻きのシャツの上に、上着も羽織っていなかった。手には大きな懐中電灯を持っており、その明かりの中で、 赤毛の犬が少年たちに向かって吠えていた。そしてセムの顔は、全速力で駆けつけた為か、怒りの為か、それとも別の理由の為か、 激しく歪み、今にも泣き出しそうに見えた。

「こいつが、あんたたちに、何したって言うんだよ!」

と真っ赤な顔で、上級生たちに向かって、セムは叫んだ。

「何も悪いことなんかしてねえのに、どうしてこいつは、こんな……!」


 何も悪いことなんかしていない。

 けれど食べられる。檻に入れられて、殺される。夜空に向かって吠える、羊や牛たちと同じように。
 その為に、生まれてきた命だから。


 セムはこちらを見ていなかった。だがしかし、確かにその言葉の中で、 彼の瞳と目が合った、とレインは思った。どうしようもならない怒り、どうしようもならない嘆きに、爆発しそうな瞳で。
 その瞳は、牛や羊にも似た純粋さでレインを睨みつけ、同時に、体を揺さ振った。

 学校では見せたことがない後輩の姿を目の当たりにして、怯む少年たちの手から、セムはカメラを奪い、地面に叩きつける。 その行動にさすがの少年たちも顔色を変え、セムに詰め寄る。

 その隙に、レインはリュックを背負い、走り出した。

--------------------------------------------------
[640]



/ / top
inserted by FC2 system