彼らが元気良くエッダに挨拶し、家の中へ入っていったのを見届けると、レインは布団の上に座り直した。

 まるで一陣のつむじ風が通り過ぎたかのようだった。
 思えばレインは、中学生、高校生くらいの若者と、ほとんど接触したことがない。 カラフルな傘の下にあった、瑞々しく日に焼けた逞しい腕や、或いはよく手入れされた長い髪、 そしてそこから発散される若々しいエネルギーは、レインには強過ぎた。彼らの会話は、鼓膜を通る間に別の星の言葉に変換されてしまい、 頭の中で騒音となってぐるぐる回るようだった。

 クレーター・ルームに初めてやってきた時、あまりの人の多さ、騒々しさに、気持ち悪くなってしまったのと似ている。
 レインは飴玉を口に含んだまま、深く息を吸い込んだ。
 あまり気にしない方がいい。どうせ彼らは、明日には帰るのだから。そう自分に言い聞かせると、リュックから絵入りの 物語を取り出し、薄暗い中で目を凝らしながら、読み始めた。

 そしてそのまま次第に、彼らの存在は、レインの中で萎んでいった。思っていたほど、彼らの存在は、レインの脅威とはならなかった。 午後に雨が止んで、彼らが牧場に出てきた時も、レインは小屋の中で本に読み耽っていた。彼らの方も、羊を追ったり 牛の乳を搾ったりするのに夢中で、何度も小屋のすぐ側を通ったが、こちらに気づく様子はまるでなかった。

 だがしばらくすると、甲高い女子の声で、レインは本から顔を上げた。

「えー? 交配って…… 交尾?」

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