足元の缶から長いストローを取り出し、注射器にセットすると、人工授精師はそれを、直腸に突っ込んだままの腕の下へ差し込んだ。

 レインは石の隙間から、注意深くその様子を見つめた。作業自体は見慣れたものだが、いつも遠くから隠れて眺めていたので、 こんな間近で見るのは初めてだ。肛門と子宮の区別がつかないので、ストローが、腸に入ったように見える。当の雌牛はまるで 意に介さない顔をしているが、牛に自分を置き換えて想像すると、尻から血の気が引くような気持ちになった。

「このストローにはね、種牛の精液が入ってます。で、これを膣に注入して、はい終わり」

 人工授精師はあっという間に作業を終えると、直腸に突っ込んでいた片腕を引き抜いた。もはや声すら出ないで後ずさる少年たちを尻目に、 鼻歌混じりに、茶色く汚れた手袋を取る。

「ありがとうございました」

と頭を下げるセムの後ろで、少女たちは囁き合った。

「こうやって、子牛が産まれるんですね……」

「何か嫌だ。可哀想じゃない?」

「うん……」

 レインは少女たちの顔を見た。その顔には、はっきり嫌悪と不快、そして僅かに怯えたような表情が浮かんでいる。
 そこに、自分が感じた「尻から血の気が引く」のとはまるで違う、何か異様な隔たりのある感情が存在していることを、 レインは敏感に感じ取った。

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