「なあなあ、こういう風にやるってことは、雄牛からあれ絞り取ってるってことだろ。それも、お前ん家でやるの」

「……そっちは、専門の農家でやってるから……」

「あれだろ、牛の乳搾るみたいに、こすって出してやんだろ!」

「マジで?」

 笑い転げる少年たちの中で、セムはにこりとも笑わず、体を固くして立っている。

 唐突に、レインは、セムが今自分と同じ気持ちであることを、感じ取った。
 さっさと帰ればいい。山を越えた、向こうの町へ。彼岸からやってきた者は、どうせいつまでも此岸には居られないのだから。

 そこでひとまず彼らの願いが通じたかのように、エッダの「皆、おやつ食べるー?」と言う声が聞こえてきた。少年たちは元気な雄叫びを 上げ、走り出した。レインは「おやつ」の言葉に食欲が刺激され、後ろを向くと、飴玉を取り出して口に入れた。そしてまた前を向くと、 挨拶をして去っていく授精師の後に、セムが少女の一人と、ぽつんと二人きりで残っていた。

 眼鏡をかけ、髪をおさげにした彼女は、どちらかと言えば大人しい方の少女だった。彼らの会話を聞いていると、他の四人は上級生だが、 彼女だけは同級生のようだ。
 彼女に背を向け、牛の背中を撫でるセムに、少女は躊躇いがちに言った。

「あの…… ごめんね」

「何が?」

とぶっきらぼうにセムは言った。

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