しばらく沈黙があった。 ただ黙ってユーリを見つめるザネリの表情は、まるで読めない。取引を考えているのか、 ただ面白がっているのか。 奥の床の間には白や黄色の菊、薄紫の藤袴が溢れんばかり。 欄間には波間にたゆたう小舟。天井いっぱいに画かれた牡丹の花からは、今にも花弁が零れ落ちてきそうだ。 美しい襖と芳しい緑の畳が広々と広がるその部屋は、しかし、今や誰にとっても座敷牢に等しい。 やがて、耐え切れなくなった沈黙を茶化すように、スーラが嘲笑混じりの声を上げた。 「……それであんたは、お家に帰るつもりかい」 「違う」 素早くユーリは言った。 続けようとした言葉を、わざわざこいつらに聞かせる理由もない、と最初、ユーリは思った。しかしすぐに、思い直した。 これは、こいつらに聞かせる為の言葉じゃない。自分自身に、聞かせる為の言葉だ。 ユーリは静かな声で、皆に聞こえるよう、はっきりと宣言した。 「俺は、タニヤを助ける」 と、スーラが唐突に、ヒステリックな笑い声を上げた。 「助ける? 馬鹿言うんじゃないよ。折角あたしがくれてやったチャンスをむざむざ逃しておいて、今さら何だい」 「そうだよ」 -------------------------------------------------- |