バックミラーの中で、トマの眼鏡が、何かを射るように鋭く光る。

 しかし、それにおや? と思う暇もなく、後ろから尻を蹴られ、テクラは振り向いた。

「駄目だ。やっぱり、ミドガルドオルムは完全封鎖されてる」

 テクラの尻を蹴ったヒヨは、そのまま足でしっしっ、とやり、両手に抱えたファーストフードの袋をどさりと後部座席へ下ろした。

「観光客や行商人、運送業は勿論、たまたま外に出てて閉め出された住人まで。とにかくこの先三日間は、誰もミドガルドオルムに入れない」

後部座席の窓から首を入れて報告するヒヨに、トマは尋ねる。

「どうしてそんな事態になったんだ」

「死体泥棒のせいだ」

 と、今度はグレオが、助手席の側から現れた。

「死体泥棒?」

「ああ。死体を盗むだけじゃなく、町の住人も一人、殺している。今回盗まれた死体は、その殺された爺さんで、 葬式の直後にやられたそうだ。しかも、ちょうど麓の警察が捜査に入っている最中だった。それで面目丸潰れの警察は、犯人を逮捕すべく、 強硬手段に出たと言うわけだ」

 ふむ、とトマは呟き、顎に手をやった。

 テクラはそっとキリエを見た。
 キリエは彼らの報告を聞いているのかいないのか、まっすぐ前を向いたまま、微動だにしない。 ひょっとしたら、イオキまで後一歩、という場所にいるかも知れないにも、関わらず。

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