今こうしてここにいるのも、全てはワルハラの為。ミトの為。一刻も早くイオキ様を見つけ出し、領主へ貢献、 そして『レッド・ペッパー』の名誉を回復させなくては。

 しかし、焦る頭とは裏腹に、気がつけばろくに発言もしないまま、話し合いは終わっていた。

 その後、レッド・ペッパーたちは車を麓の街の駐車場に置き、シナイ山の山道入り口へ向かった。

「こりゃ登山って言うより、ロッククライミングだな」

 そそり立つ岩肌を間近に見上げ、ヒヨが口元を歪めた。

 全く彼女の言う通りだった。まるで巨大な岩石を縦に荒く削ったような、その傾斜の急さ、荒さを見れば、 岩肌に巻きつくような山道が、ミドガルドオルムと麓を繋ぐ唯一の生命線だと分かる。
 そして今、その入り口は「通行禁止」の立て看板とパトカー、警官たちによって塞がれていた。

「やっぱり、メイドさんには残ってもらうしかないな」

 と、野次馬に紛れて警察の様子を窺いながらグレオが言った。

「メイドさんの容姿は、目立ち過ぎる」

確かに顔は隠せても、その体を見れば、どんな男の目も惹かずにはいれらない。先の話し合いで決まったことでもあるし、キリエは 特に反論しなかった。

 その代わり彼女は、その真紅の瞳で、テクラを見つめた。何も言わなかったが、千の言葉より雄弁に、凍えるような零度と硬度を以て、 テクラを見た。
 その視線を受けた途端、それまで何処かふわふわしていたテクラの脳は、澄んだ音を立てて張り詰めた。

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