「あ〜、くっさい! こいつ、トランクの中で屁こきやがってさあ」

「え、あれヒヨじゃなかったのか?」

ヒヨがグレオの腹に飛び蹴りを食らわせるのを見物した後、テクラたちは素早く、警官たちから制服を剥ぎ取った。下着姿にされた哀れな警官たちは、 数珠繋ぎに手足を縛られ猿轡をされ、上からトランクの中にあった毛布をかけられ――  「このまま転がしといたら風邪を引いてしまうからな」とグレオが言った―― 道の脇の窪みに転がされた。

 それらの作業を終えると、テクラたちはパトカーに分乗した。ガードレールぎりぎりのところで止まったパトカーの扉を開けたテクラは、 ふと思いついて、ガードの外を覗き込んだ。途端に断崖絶壁が目に飛び込んでくる。夕闇のせいで下の方が見えず、まるで底が無いような。
 テクラは思わず唾を飲んだ。

「うわあ、これ、落ちなくて良かったですね」

 ぶるると首を振りながら顔を上げ、空を仰ぐと、金色の星を輝かせ、肌色と藤色を重ねたような宵入りの空を、 虹色の光が侵食している。
 それが、黒く影になった山の端から滲み出ているのだと知ると、テクラは興奮した面持ちで振り返った。

「トマさん、あれ……!」

「ああ。オルム硝石が輝いているんだ」

 助手席から、トマも珍しそうに頂上を仰いでいる。テクラは急いで運転席に乗り込むと、やや大きめの制服の袖を引っ張り上げ、 車のハンドルを握った。

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