トーベは咄嗟に、辺りを見回した。

 隠れる場所と言えば、墓石の裏くらいだ。たった今登ってきた崖の縁を、再び下りるしかない。
 電光石火の判断を下すと、ゆっくりと墓石から下りて地面にしゃがみ、ユタの肩をつついた。片膝をついた格好で懐のピストルに手を 伸ばしていたユタは、はっと強張った表情で振り向いた。

 この包囲された町でピストルなぞ撃ってみろ。たちまちエイゴン警察に捕まるぞ。

 やはり実力はあっても、まだまだ経験不足か。と、半ば苦笑し、半ば苛立ち紛れに思いながら、トーベは無言で背後の崖を指差した。 ユタはすぐに了解した顔で、ピストルをしまうと、墓場へ顔を向けたまま後ずさり始めた。

 と、その時、「見つかったぞ!」と言う声がした。

 墓場に散らばりかけていた男たちは、揃って門の方を向いた、トーベとユタも動きを止め、そちらを見た。やはり松明を持った一人の男が、門のところで、 怒鳴っていた。

「奴は上に逃げた! 今、皆で追っているところだ!」

 見上げると、虹色の町に、松明の行列が出来ている。火の玉を連ねた蛇は、層になった町の最上層目指して、ジグザグにうねっている。

 男たちは一斉に気炎を上げると、追跡の群れに加わるべく、墓場を出て行った。門を閉じることも忘れ、すっかり誰もいなくなった後には、 元通り荒涼とした地面と色々な形の墓石、静寂と暗闇だけが残った。

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