痩せ細った手首を掴まれ、ユーリははっと振り向いた。

 鯉と鷺の死闘を墨で画いた大きな襖を開け放し、立っていたのは、何の変哲も無いサラリーマン風の、狐目の男だった。

「こんなところで再会するとは、奇遇だな」

 ユーリの手首をがっちりと握ったまま、ザネリはこちらを見下ろして、にやりと笑った。多少日に焼け、目元の皺が深くなったように見えるところ以外、 何も変わっていない。言葉とは裏腹に、その態度や表情は、つい三日前に会ったばかりの人物のようだ。

 ユーリの周辺が、ぐにゃりと歪んでいく。思いもかけない、望んでもいない再会に、自分が悪夢にいるのか現実にいるのか、ユーリは俄かに混乱した。
 と、カトリの声が聞こえた。

「ザネリ!」

 同時に、硬い殻に包まれた胡桃が、弾丸のように飛んでくる。ザネリがひょいと首を動かしてそれを避けると、 ユーリは乱暴に横から突き飛ばされ、空いたザネリの胸倉に、カトリが掴みかかった。

「あんたねえ!」

ザネリよりも背が高いカトリは、付け睫毛を震わせ、彼を取って喰わんばかりの鬼のような形相で、彼を締め上げ、怒鳴った。

「今まで連絡もよこさず、どこほっつき歩いてたのよ! こっちはね、あんたがグールの子供連れてくるって言うから、 オークションの枠一つ空けて待ってたのよ! どんだけ損失が出たと思ってんのよ!」

しかしザネリは全く動じず、肩をすくめた。

「まあまあ。結果的にユニコーン号はああなってしまったんだ。俺も君も難を逃れ、こうしてここにいる。 死ねばそこで終わりだが、生きていれば幾らでも損失分を取り戻せる。だろう?」

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