「そーいう言い方をするってことは、結局、グールの子供には逃げられたわけね」

全く心休まらない表情で、カトリは唸る。

 その横で、ユーリは思わず呟いた。

「お前、殺されたんじゃ……」

 二人は横目でこちらを見た。
 カトリは眉をひそめ、ザネリは笑う。

「逃げるのは得意でね。奴らが砂漠の猟犬なら、私は狐だ」

「ちょっとちょっと、何よ。砂漠の猟犬って、ユーラクの秘密警察のこと?」

あんた本当にどこで何してたのよ、と真剣な面持ちで尋ねるカトリの手を外し、ザネリは部屋の中央へ進んだ。スーラに挨拶して膳の前に あぐらをかくと、空いたグラスにワインを注ぐ。ザネリが美味そうに喉を鳴らすのを、ユーリは襖のところから 眺めた。

 そしてザネリは語った。クレーター・ルームでの出来事、イジドールでの出来事、その中心にいた美しきグールの子供、イオキのことを。

「……確かグールって、十二歳くらいまでは人間と同じように成長するのよね。で、個人差はあるけど、十二〜三十歳くらいの間で、 成長が止まる。だからその子が見た目通りの年齢とは限らないけど……」

ザネリの話を隣で聞いていたカトリは、胡桃を齧りながら呟いた。

「計算が合わなくない? 一番最近死んだのは、十七年前のアンブル領主でしょ? で、その時に生まれた子供は、五年前からアンブルの領主 をやっている。グールは一人死んで一人生まれるサイクルだから……」

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