狙った獲物を目にも留まらぬ速さで射抜く、惚れ惚れとするような、ナイフ捌き。 何一つ変わっていない。その手腕も、口元に浮かぶ笑みも、残酷さも。

 何故あいつの顔を見た時に、さっさと逃げなかったんだ。
 ナイフによって襖に縫いつけられた左手に激痛を感じながら、痛みで叫びながら、ユーリは思った。
 何をぼんやり立っていたんだ。あいつにどんな酷い目に遭わされたか、忘れたのか。それなのに、あの落ち着いた声に、あの狐のような目に、 ほんの少しばかり懐かしさを感じて、その場に突っ立っていたなんて。

 また捕まる。
 クレーター・ルームで出会った時から、俺は、あいつから逃げられない。

「ユーリ、イオキはどこにいる?」

 悠々と立ち上がり、こちらに近づきながら、ザネリは言った。

 その声を背中で聞きながら、ユーリは左手の甲から生えたナイフに、右手をかけた。何をしたいのか、自分でも分からなかった。

 涙で滲む視界の中、左手から流れる鮮血が筋となって襖に垂れていくのを見ながら、ユーリは思い切り、左手からナイフを引き抜いた。

 頭が真っ白になるような痛みが走り、同時に、何かが電撃のように、思考回路を走った。

「来るな!」

 自由になった血塗れの左手を襖から引き剥がすと、ユーリは振り向き、右手に握ったナイフを己の首筋に当てた。

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