町の一段下にある巨大な猫の門から、娼婦たちががやがやと、町を見上げている。テクラたちは風のようにその横を通り抜け、 ようやく松明行列の、最後尾に追いついた。彼らに向かって話しかけようとするテクラを、ヒヨが止めた。

「こんなところで話したって無駄だ」

「でも……」

 何か言いかけるテクラの首根っこを掴み、ヒヨは、どんどん進む。
 狭い道いっぱいに広がった行列をかき分けるようにして、四人は列の先頭へ向かった。
 松明の炎と人々の異様な熱気、降りかかる火の粉、橙色に照らされた人の群れ。まるで、溶岩の河を、泳いでいるようだ。 女もいる。老人もいる。子供もいる。皆一様に興奮した面持ちで、宵空を背に立つ蛇神の社に向かい、「鬼子を殺せ!」と叫んでいる。

 町の中腹辺り、店や喫茶に囲まれた小さな広場で、列は最大限に膨らみ、流石のトマたちも足を止めざるを得なくなった。
 そこで、とうとうテクラは我慢出来なくなり、声を上げた。

「警察です。後は我々が何とかしますから、住民の皆さんは、解散してください」

ハイトーンのその声は虚しく怒号に掻き消されたが、何度も声を張り上げている内に、ようやく隣にいた男が振り向いた。

「警察か。警察に、何が出来るってんだ。結局、犯人だって見つけられなかった癖に」

「でもこれは、私刑です」

テクラは必死に言った。

「私刑だって、立派な犯罪です。まして殺すなんて。もしも本当にそんなことをするんだったら、我々は、 あなた方を逮捕せざるを得ません」

 何だと? と男が怒りの声を上げ、周囲の人間が次々に振り向く。

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