その、炎に照らされくっきりと明暗分かれた、異形の朱、異様な影。彼らの顔を見たテクラは、思わず息を呑んだ。

「何体の死体が喰われたと思っているんだ」

「俺の親父の死体が」

「私の友人の死体が」

「仕舞いには、殺人まで起きて」

「次は俺だったかも知れない」

 大人たちの怨嗟の声を、まるで通りの喧嘩か何かのように、子供たちが囃し立てる。

「殺せ、殺せ、狼頭の鬼子を殺せ! 町の人間、皆殺しにされる前に!」

 松明を掲げた人々が、四方からテクラへ詰め寄ってくる。胸の内を、焦りと後悔、恐怖が、音も無く蛇のように這い上がってくる。
 テクラは助けを求めるように辺りを見回し、ぞっとした。
 熱い。見えない。仲間の姿が。群集の果てが。炎の流砂が無限に広がって、己を呑み込もうとしている。

 と、不意に、長い指がテクラの腕に食い込んだ。引っ張られた拍子によろけ、人の波に呑まれそうになるテクラを、 そのまま強引に岸辺へ引っ張っていく。

「トマさん!」

「お前のその態度は立派だと思うが」

人の波を掻き分けながら、トマは言った。その声は、本当に立派と思っているようでもなく、かと言って叱るでもなく、 淡々としていた。

「感情に支配された集団に、個人の理性は通用しない。先頭まで行って、力ずくで止めるしかないんだ。説教は、その後だ」

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