「ですが皆さん、いつまでもこの幸福が、続くと思いますか?」

 虫が這出でたような穴ぼこだらけの床板一枚隔て、テッソの講義は続く。

「この町は、土地的には非常に辺鄙な場所でありながら、オルム晶石によって栄えています。 皆さんのお父さんも、ほとんどがオルム晶石の採掘場で働いているでしょう。
ですがいつか、オルム晶石は無くなります。鉱物がオルム晶石になるには長い時間がかかりますが、それをずっと上回る速さで、 我々が採掘しているからです。このままでは、二十年後にはオルム晶石が無くなると、第一都市の偉い学者は計算しています」

ざわ、と子供たちが騒ぎ出す。テッソはいっそう、声を張り上げた。

「オルム晶石が無くなれば、この町に取り得など何一つ無い。収入源も無くなり、観光客も来なくなる。岩山を転がり落ちるように、 寂れていくだけです。あなたたちが大人になる頃には、この町はもう、死んでいるのですよ」

 穴から這い出た虫が頭を引っ込めるように、子供たちは静まり返った。

 ややあって、一人の少年が、沈黙を救うべく道化に出た。

「でも先生。俺なんか今でも、毎日父ちゃんに殴れらるし、全然幸せなんかじゃねーや。 不幸には慣れてるから、別にいいよ」

すぐに何人かが、「俺も」「俺も」と続き、教室は笑いに包まれる。

 バン! と黒板を殴る音が、それらを遮った。
 テッソは声を荒げ、言った。

「これだけ私が言っているのに、君たちはまだ分からないのか! もういい! そんな低脳な人間に、私の授業を受ける資格はない!  出て行け!」

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