やがて家が無くなり、テクラは最後の屋根の縁で、立ち止まった。

 山の木のように家が建ち並んでいたのが急に開け、広々とした空間が広がっている。 未舗装の地面に重機やトラックが停まり、その奥に、大きな洞窟があるのが見える。

 そして、その脇の岩山道を少し登った先に、土地神の社が見えた。
 社は木造の平たい建物で、屋根にはやはり木彫りの、 十字に巻きつく巨大な蛇の像が飾られていた。

「殺せ! 殺せ! 人喰いの鬼子を殺せ!」

社の周りを囲んだ松明の、大合唱。松明と篝火に照らされ、昼間のように煌々と輝く社。地上の炎と天上の闇の間で、それらを見下ろす 蛇。

 あの中に、イオキ様がいるのだろうか。そう考えて、テクラは胸が痛くなった。可哀想に。あんな風に囲まれて、 あんな、酷い言葉を浴びせられて。グールとは言え、まだ、ほんの小さな子供なのに。

 一刻も早く、この悪夢から解放してあげなければ。

 上がった呼吸を整え、汗でずり落ちそうになる制帽を被り直すと、テクラは屋根から飛び降りようとした。

 と、その時、視界の端、採掘場に停まった重機の陰で、何かが動いた。
 テクラは咄嗟に踏み止まり、その場所を凝視した。
 数秒の後、重機の陰から分裂するようにして、人影が立ち上がった。

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