答えに、数秒の間があった。

「いいんです」

 と、テクラはザネリを睨みつけたまま、言った。

「あなたは、僕たちの任務を完遂するのに、邪魔な存在ですから」

 同時にテクラは、前方に向かって飛び出した。

 水面を走るような数歩で一気に間合いを詰め、サバイバルナイフを繰り出す。初撃はトレンチナイフに弾き返されたが、 そこから間髪入れず突撃を乱発し、強引に相手を後ろへ押していく。

「本当に、腕を上げたな」

 薄笑いが貼りついたザネリの唇から、やがて、舌打ちが漏れた。無闇やたらと振り回しているように見え、 テクラの一撃一撃は的確で、重たいことこの上ない。トレンチナイフを持つ手が痺れる前に、と、ザネリは次の一撃を弾き返すのと 同時に、後ろへ飛び退いた。

 と、そこで、彼は気がついた。いつの間にか、洞窟の入り口の近くまで押されていたことに。

「成る程」

 額に汗を光らせながら、ザネリはにやりと笑った。

 乗ってやろう、と言ったように、テクラには見えた。戦いが終わった後、この洞窟から凱旋するのは果たしてどちらになるか、と。

 まるでイタチか何かのように、ザネリの姿はするりと洞窟の中へ消えた。テクラは口にサバイバルナイフを咥えると、 警官の上着を脱ぎ捨て、彼の後を追いかけた。

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