殺される、という底知れぬ恐怖が背筋を走るのと同時に、テクラは思いきり両足を振り、左手を離した。

 大きく弧を描くように落下していく、数秒間。

 革靴に包まれた爪先が金属の感触を捉えた瞬間、テクラは無我夢中で体を前に倒し、何とか排水用パイプの上に降り立った。

 そのまま間髪入れずに、テクラは湖畔に向けて走り出した。このままでは分が悪い。まずは安全な地面に下りて、岩陰か何処かに身を 隠して――

 と、縁まで後一歩、というところで、背後に誰かが飛び降りた。

 その音と振動を感じるなり、テクラは窮鼠の形相で振り向き、振り向きざまにナイフを投げた。しかし、銀色のナイフは虚しく空を切り、 七色に光る湖水へ落ちた。

 そして、銀色の軌跡とすれ違うようにして、真っ直ぐに、トレンチナイフが。


 鈍い音を立てて、トレンチナイフは、ナイフを放った形のままのテクラの掌を貫通し、さらにその後ろ、 湖岸から頭上の注水用ポンプへ、排水用ポンプを跨ぐようにして伸びた木製の階段の側面に、突き刺さった。


 左手を湿った木の板に縫いつけられたテクラの口から、思わず、呻き声が漏れた。

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