続けざまに容赦なく、鳩尾に、ザネリの爪先が入る。あまりの激痛にテクラの意識は飛びかける。 口から血と胃液を吐き、体全体が痙攣し、右手からサバイバルナイフが落ちる。しまった、と思った時にはもう遅い。 咄嗟に足で蹴り飛ばそうとするが、それより早く、ザネリが爪先に引っ掛けて己の掌に納める。

「それに、一つ言っておきたいんだけれどね」

 左手のナイフを抜かなくては。テクラが死に物狂いで左側に伸ばした右手首を、ザネリは素早く掴む。 反対側へ叩きつけ、掌にサバイバルナイフを思いきり突き刺す。

 両腕を広げる形で階段に縫い止められたテクラの叫び声は、洞窟内に反響し、耳を塞ぎたくなるような咆哮となった。

 あの、小さかった背中は何処へやら。
 巨大な背中で美しい星々を遮り、ザネリは、磔にされたテクラを見下ろした。

「私は嫌々この稼業をやっているわけじゃない」

 シャツの袖口から、指の長さ程の湾曲したナイフを取り出し、掌で弄びながら、ザネリは笑った。

「私はいつも、自分の行きたい道を行っているつもりだよ」

 ゆっくりと首筋に近づいてくる刃の表面に、七色の光が揺らぎ、滲む。

 両の掌を中心に、天地も昼夜も分からなくなるような激痛を感じながら、テクラは目を見開いたまま、ザネリから目を離せなかった。
 その表情は、いつもと全く同じだった。仕事の為に『商品』を買い、売り、殺す時と、全く同じ。

 僕はこの人にとってその程度の存在だったのだ、と首筋に押し当てられる冷たいナイフの感触を感じながら、テクラは思った。

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