「こうして全人類から憎まれる気分はどうだ、人喰鬼」

 イオキは振り向いた。ザネリが松明の炎で微かに歪む向こうから、こちらを見つめていた。

「人間が悪いわけじゃない。グールが悪いわけじゃない。ただ、グールが人間を食べる以上、どんな形であれ、君はこの先ずっと、 圧倒的な憎しみの世界で生きざるを得ない」

 そう言いながら、ザネリはゆっくりと、こちらに向かって歩き出した。

「悲しいかな、君の不幸の元凶は、数だ。仲間であるグールは少なく、敵である人間はあまりに多い。さらに君は、人間を食べることに 罪悪感があるようだね」

その口元が、嘲笑とも憐憫ともつかぬ形に歪む。

「君に用意されているのは、残酷な帝王の椅子だけだ。そこに座って、民に憎まれ、上辺だけの兵に取り巻かれ、友の一人もなく、 永遠にたった独りで――」

「近寄らないで」

 イオキが鋭く言い、道の中程で、ザネリは思わず立ち止まった。

 痩せこけた体に、魔物のように美しい緑の瞳を爛々と光らせ、イオキは、こちらを睨みつけていた。ザネリはほんの刹那、怯んだ。が、 しかしすぐにその小さな体が震えているのを見て、にやりと口の端を吊り上げた。

 焼け焦げそうな熱の中で、イオキは震えていた。痛みと、恐怖と、そしてほんの少しの怒りで。
 ザネリのその一言一言が、ガラスの棘のように、胸に突き刺さる。ズタズタに切り刻み、血を流させる。 彼の言葉は、わざわざ彼に言われずとも分かっていること。理解していること。その痛みがどれ程のものか、 悲しみがどれ程のものか――

 ――お前には決して、分かるまい。

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