「見ろ! 何か落ちてくるぞ!」

 屋根の上の異常に、いち早く気づいた何人かが、大声を上げた。群集を鎮める為、本殿正面に回っていた巫女は、群集と 共に上を見上げた。

 二人が屋根から落ちてくるのを見て、その下にいる人々は、慌てて身を退いた。 巫女の目の前、本殿正面にぽっかりと空いた空間に、二人は猫のように着地した。
 間髪入れずユタが半月刀を振り、ザネリはトレンチナイフを突き出す。
 唐突に空から落ちてきて死闘を演じる二人を、群集は唖然として見つめた。 一人は大きな三日月形の刃、もう一人は小さな錐形の刃を手に、打ち合っては、飛び退く。一撃一撃、互いの急所を狙い、必殺の手を繰り出す。 炎に照らされ、飛び散る汗。靴が砂利を蹴散らす音、相手を殺すことのみに取り憑かれた、その形相。 状況が飲み込めないまま止めようと思っても、その間に入れるわけがない。

 イオキは息を呑み、群集が作った円陣の中で闘う二人を、見下ろしていた。
 と、不意に群集の一人が顔を上げ、こちらを指差して大声で叫んだ。

「鬼子だ! ほら、蛇神様の像のところに!」

 人々はこちらを見上げ、どよめいた。イオキは急いで身を隠そうとしたが、遅かった。

 誰かの投げた石が、額に当たった。イオキは額から血を流し、よろめいた。それを見た群集は、一斉に石を投げ始めた。

「死ね! 死んでしまえ! この、人喰いの鬼子めが!」

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