中でも特に頭に血の上った一部の暴徒が、巫女の制止を振り切って本殿に上がり、扉を叩き始める。

 「死ね!」の大合唱を聞きながら、落雷轟くような扉の打ち鳴らされる音を聞きながら、 飛んでくる石が耳元で空気を裂く音を聞きながら、イオキは石化したように瞳を見開き、立ち尽くしていた。

 その、混じり気のない緑の瞳は、人々の顔、顔、顔を映したまま、 瞬きもしない。 ここまで来る間、逃げるのに必死で、振り返って彼らの顔を見る余裕などとてもなかった。そして今、蛇が絡まる十字架の上から 見下ろした、人々の顔にあったもの。

 それは、炎に照らされて踊るような、圧倒的な憎悪と嫌悪、敵意と殺意だった。その他には、何もない。ただひたすらに、異分子を排除しようとする目。 当然のように、この世に存在してはならぬものとして消そうとする、意思。

 間違っていたのだ。お前がこの世に生まれてきたこと自体が。

   こめかみに、一際大きな石がぶつかる。頭蓋が割れ、血と共に脳漿が飛び散る。イオキは白目を剥き、後ろ向きに倒れかける。が、 次の瞬間、こめかみの傷は骨、肉、皮膚と綺麗に塞がり、寸でのところで意識を取り戻したイオキは、蛇像に手をついて持ちこたえる。

 と、その時、イオキの耳に銃声が飛び込んできた。

「どけ! てめーら!」

 銃声に気づかない者、或いは気づいても投石を止めない多くの者たちへ、さらに威嚇射撃を続けながら飛び込んできたのは、三人の警官だった。

 暴動を鎮めに来たのかと思いきや、先頭の女は違った。彼女は両手の銃で暴徒を薙ぎ払うと、「止せ、ヒヨ!」と制する後ろの二人を振り切り、 今だ死闘を繰り広げ続けているザネリとユタの元へ飛び込んだ。

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