彼の後ろにある掘りかけの穴から、強烈な土くれの匂いと、腐臭が、漂ってくる。
 こんもりと周囲に盛られた土の中に、十字架の形の墓石が、 転がっている。

『……さっさと行け』

 やがてそう呟くと、テッソはシャベルを持ち直し、後ろを向いた。

 そして、何事も無かったかのように、掘りかけていた墓を、再び掘り始めた。
 シャベルを穴に突き刺しては、土を跳ね上げ、掘る。二本の腕が、機械的にそれらの動作を繰り返す。 穴の上に屈んだ顔が、土と汗で汚れているのが、上方から注ぐオルム晶石の明かりの余波で、うっすら見える。

 遠くから聞こえてくる祭囃子に混じり、ザク、ザク、と言う音が、静かな墓場に響く。

 その音を聞きながら、イオキは立ち尽くしていた。次第に濃くなっていく腐臭は、人間のものだ。けれど、食べたいという気持ちは、微塵も起こらない。 食欲をそそるには、その肉はあまりにも腐っている。

 イオキ悪寒と吐き気を催し、早くそこから立ち去りたいと思ったが、 足が震えるばかりで、動けなかった。
 何か言わなくては、と頭の隅で誰かが囁いた。人喰い鬼として、彼に何か言うべきことがあるはずだ。
 けど、何と言えば? 「その肉は、食べるには腐り過ぎています」。若しくは、「実は僕も人間を食べるんです」とでも?

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