テッソは穴から腐った死体を引き摺りだし、乱暴に手足を取って胴体だけ黒いビニール袋の中に入れた。口をしっかり縛り、さらに大きなバッグの中へシャベルと一緒に入れた。 そしてそれを担ぐと、イオキには目もくれず、墓場の門に向かって歩き出した。

 イオキはふらふらと彼の後を追おうとして、立ち止まり、地面に倒れた自警団たちを見下ろした。

 イオキは恐る恐るしゃがむと、一人の男の頭を持ち上げた。拍子に、頭から流れていた血がべっとりと、両手と胸についた。 イオキはぎょっとしたが、しかし勇気を出して、そのまま男の首筋に手をやった。キリエがやってくれていたのを真似し、指で脈を探る。 すると、弱々しいながらも、脈拍が感じ取れた。

 イオキはほっと安堵の息をつくと、立ち上がり、そこから立ち去ろうとした。
 が、少し行きかけた、その時

『お、おい……』

 老人の声がして、イオキは振り向いた。

 赤い林檎の形のオルムランプを手にした老人が一人、縺れた足取りで、男たちの方へ向かっていく。

 老人はイオキのすぐ近くまで来たが、男たちの方に気を取られているようで、気づかず、こちらに背を 向けた。男たちの方へ手を伸ばしかけ、そこで唐突に、こちらを振り向いた。

 血がべっとりとついたイオキの浴衣の胸元を見て、老人は酸欠の金魚のように、喘いだ。

『お、お前が、やったんか』

 違う、とイオキは首を振ろうとした。

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