そして得られた結末は、何と言う皮肉だろう。

 先生が僕を引き取ったのは、墓場へ死体を盗りに行く間、息子を見る人間がいなくなるからだった。 けど、その為に引き取った子供が、まさか人喰鬼だったなんて。

 イオキはふらつく体を引き摺り、皿を持ってこちらへやってこようとするテッソの前に、立ちはだかった。

「……そんなもの食べたって、病気は治らない」

 顔を顰めて立ち止まるテッソに、熱で今にも輪郭を失い、色彩と光ばかりが溢れそうな瞳を当て、イオキは言った。

「先生だって、本当は分かってるんでしょう。お願いだから、そんなもの、ドニに食べさせないで」

 たちまちテッソの表情は、見るも不快に歪んだ。

「君に何が分かる?」

 テッソは一歩詰め寄り、イオキを真上から見下ろした。まるで世界の終焉の日までそこに立ち続けなければならない、灰色の城壁のように。 深い深い影がイオキの上に落ちる。

「苦しむ息子に何もしてやれない父親の気持ちが、君に分かるのか? 何をしても虚しい。刻一刻と死神が近づいてくるのを、 ただ見ていることしか出来ない家族の気持ちが?」

 息の根を止めんばかりにこちらを睨んでくる白目は充血し、皿を握った手首には脈が浮き出る。

「一分でも一秒でも、息子に長く生きていて欲しい。その為ならば、何でもする。私を止めることは誰にも出来ない、誰にも!」

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