猿か猫だ、と直感的に思った。だが違った。

 岩と地面の間の窪み、紅葉が厚く積もった中に、半ば埋もれるように丸くなっていたのは、人間だった。

 ロミは息を呑んだ。

 汚れたシーツにくるまり、そこから伸びた手首は、骨と皮一枚にまで痩せ細っている。積もった落ち葉から滲む水分のせいか、 その上に散らばった髪は湿っている。紅葉が被さった横顔は、長い睫毛に縁取られた目を閉じ、生きているか死んでいるかも定かでない。

 しかし、ロミの呼吸が止まり、視線がその青白い頬に釘付けになったのは、思いもかけぬ邂逅の驚きや、 死体かも知れないとい恐怖からだけでは、なかった。
 それでもなお、その子供が美しかったからだ。まるで、真っ赤な砂浜に打ち上げられた、人魚のように。

「き…… 君」

 呆然としていたのも束の間、ロミは急いで岩を滑り下りると、彼の傍らに膝をついた。

「ねえ、大丈夫? 生きてるの?」

 森の中で倒れていたレインを助けた時の記憶が、目の前の光景に重なる。

 思わずその肩に手をやると、少年は目を開いた。
 レインが倒れていた森よりもなお深い、深い緑色の瞳が、ゆっくりと気だるげに滑り、横目にロミを見上げる。

「……放っといて」

 と、その白い唇が、音もなくそう呟いた。

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