ユーラク領主私邸執務室の、直通電話が鳴った。受話器を耳に当てると、雪のように冷たい声が聞こえた。

『報告が遅れてしまい、申し訳ありません』

 キリエ、と思わずユーラク領主代行は呟いた。

 彼女の声を聞くのは、久しぶりだった。「ミドガルドオルムに着いた」と報告を受けて以来、毎日の定時報告が途切れていたのだ。

 やつれたミトの顔に、久々に、安堵と喜びの色が滲んだ。

「音沙汰がないから心配していたよ。レッド・ペッパーからも離脱したと聞いたし」

『私のことは大丈夫です。どうぞご心配なく』

 相変わらず、慇懃でありながらどこか威圧的な物の言い方に、ミトは笑った。言葉にならない程懐かしかった。 激務に忙殺される日々の中にふと、我が家の優しい日が差したような気がした。

 ミトは短い幸福の笑いを漏らし、革張りの椅子に深く凭れた。
 束の間、回線上に沈黙が降りた。

「……レッド・ペッパーは任務から解いた」

 しばらくしてミトは言った。

「彼らは結局、ミドガルドオルムでもイオキを保護出来なかった。期待していたが…… これ以上は時間と労力の無駄だ。 こちらの仕事も、もう少しで終わる。そうしたら一ヶ月ほど公務を休んで、自らイオキを探しに行くつもりだ」

 そうですか、とキリエは答えた。

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