「だから君も、戻りなさい」

 ミトは続けた。

「レッド・ペッパーのテクラと言う男は、ミドガルドオルムでの戦闘で瀕死の重傷を負ったそうだ。 ワルハラに戻ったら、彼の見舞いに行ってあげるといい。それから屋敷に戻って……」

『そんな暇はありません』

 有無を言わさぬ口調で、キリエはばっさりと主人の言葉を遮った。

『御主人様がイオキ様を探しに行かれると言うのなら、私もご一緒します』

 ミトは何とか彼女を説得しようとしたが、それは到底無駄な試みだった。
 ――彼女の決意を押し留められる人間が、一体この世に何人いると言うのだ?
 ――すぐにミトは諦め、キリエと合流することを約束した。その日は、遅くても、二週間以上先にはならないはずだった。 キリエが承知すると、くれぐれも己を労わるようにと声をかけ、電話を切った。

 時計を見ると、約束の時間が迫っていた。ミトは椅子から立ち上がると、背もたれにかけていたスカーフを取り、玄関に向かった。

 玄関にかかった金縁の姿見で、最後にチラリと己の格好を確認する。 今日の彼は、いつも仕事で着ている、上等なスーツ姿ではない。黒い細身のパンツにパーカー、スカーフをさっと巻き、 上からキャメルのポロコートを羽織る。

 外へ出ると、門の前に小型のジープが止まっていた。
 運転席に乗っているのは、コジマだ。

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