そのまま、ミトは自分自身でも信じられないことに、怪獣のように揺れるジープの助手席で、眠り込んでしまった。


 久々に訪れた意識の穏やかな穴の中で、キリエの銀色の髪と白い皮膚がちらつき、そして、イオキの緑色の瞳が、 星のように輝いているのを見た。相変わらずイオキは、無邪気に微笑んでいた。遥か過去に絶滅していった生物たち、 そして遥か未来に輝く星々と共に生きる、永遠の子供だった。


 目を覚ました時には、車の振動は止んでいた。

 ミトは自分が眠っていたことに気がつくと、まさか、と思った。隣に座っていたコジマが、心配そうな顔でこちらを見た。

「着きましたが、大丈夫ですか? 大分お疲れのようですし、ご気分が悪いなら……」

 ミトはすぐに笑顔を取り戻し、「大丈夫」と答えた。そして、コジマと共に車を降りた。

 降りた途端、キン、と耳が痛くなるほどの静寂が、ミトを包んだ。

 時が止まったような空気の中で、見渡す限り、青い空と、赤い砂が広がっていた。まるで、世界の果てのように。

 そして広大な砂漠の真ん中に、一群の建築物が、砂から顔を出している。それは遠目から見ると、幾つものアーチを縦横無尽に 重ねて造った、塔のように見えた。

 しかし目を細めてよく見ると、その塔の構成物である、アーチ同士を繋いで上空へ連なる柱自体が、 木々が茂るテラスや張り出した小部屋、吹き抜けの回廊などから成る、一本の巨大な塔だった。アーチの上には、柱周りを中心に、 宝珠型の屋根の家が建ち並び、その間をさらに、無数の小さなアーチや階段が繋いでいる。

 赤い砂漠の真ん中に沈みかけている一群は、街を内包した、巨大な塔の形の城なのだった。

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