「あれが古代天空王朝遺跡、通称『天空の城』です」

 横に立ったコジマが言った。

 ミトは声もなかった。

 遥か成層圏を超え、宇宙まで届いたと伝わる、古代世界最高の建築物。塔の幾何学模様が織り成す、どこか不安で、異様な静謐。

 是非近くへ行き、時が止まった城の中を歩いてみたい。
 砂と空気に崩壊し、異体系となった言語が、狂おしいまでの渇望となって湧き上がる。しかしそれは、出来ない話だった。

「ご存知とは思いますが、あの周辺は巨大な流砂で、今も少しずつ遺跡を呑み込み続けています。ここから十歩も歩けば、 もう蟻疑獄です。そして五分と経たないうちに、砂の下になる…… だから我々人間は、あの遺跡に近づくことが出来ないのです」

 けれど、とコジマはミトを見上げた。

「あなたなら…… 水の上を走れる程の身体能力を持つグールなら、きっと流砂を渡ることも、可能でしょう」

 ミトは微笑んだ。そしてしばらくの間黙っていたが、やがて遺跡を見つめたまま、呟いた。

「君を一人でここに置いていくわけにもいかない。ここから眺めるだけで、十分だよ」

 コジマの重ねた両手に、力が篭もる。

「私のことなら、気になさらないでください。ミト様は、考古学に興味がおありなのでしょう? どうぞ、是非」

「確かに。けれど」

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