およそ一ヶ月前、ユーラク第六都市で大規模火災が起きた、あの夜。

 あの晩、ミトの私宅の直通電話番号が、変えられていた。コジマは連絡がつかないまま、結局最後まで現れなかった。

 開発中だった第六都市南部の工業地帯は爆発し、全焼し、そして街の住人は誰一人として、助からなかった。

「十七年前、同じような災害が、ワルハラでもあった」

 口を開きかけたコジマを遮り、ミトは低い声で言った。

「突如発生した森林火災に飲み込まれ、とある田舎の療養地が、丸々一つ消えてしまった。火勢はあまりに激しく、焼け跡からは、 一体の死体すら見つからなかった」

 無表情に立つコジマの後ろで、砂煙が巻き起こる。 遥か彼方で『天空の城』がまた少し、砂中に沈んでいくのを、ミトは見る。

「今でも彼らの遺族は、訴えている。あのあまりにも強大な火災は、天災ではなく、人災だったのでないかと」

 コジマの身体が揺らいだ。

 万が一後ろ向きに倒れたら、彼女は遺跡と共に、流砂に飲み込まれてしまうだろう。 しかし、ミトは動かなかった。ただ冷然とその場に立ち、今にも消えそうな彼女を見つめていた。

 そしてコジマも、実際には倒れたりはせず、ただ、静かにこう言っただけだった。

「この前もお話しした通り、私はあの晩、恋人の家に行っていました」

 ざあっ、と辺りが翳った。こちらの頭上を通り過ぎる鳥の大群が、金色の太陽を覆い隠し、一瞬だけ世界は暗くなった。

 崩壊の兆しが萌える世界で、コジマは処刑台に立つ囚人のように、顎をまっすぐ上げ、ミトをじっと見つめていた。

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