地雷原を抜けてから三日後、レインは謎の兄妹と共に、荷馬車に揺られていた。

 山のようにダンボール箱を積んだ荷台の一番後ろに兄妹が腰かけ、レインは老人と共に御者台に座った。ほっかむりをした親切な老人は、 まだ少し青い林檎をくれ、レインが相槌一つ打たないのも気にせず、道中喋り続けた。

「わしはな、毎年こうやって林檎を『フォギイ・ブルー』に売りに行くのよ。そう、最近じゃあ、第四都市のことを『フォギイ・ブルー』と 呼ぶのさ。何たって、年中霧に包まれとるからな。霧っつうのは少しばかりなら林檎を甘くしてくれるが、ああ年中じゃいかん……  そこへ来たら、わしの林檎はアンブル一さ。何せ土壌が良いからな」

 確かに林檎はまだ青いにも関わらず、甘く、齧ると雪を削るような音を立てた。

 空は今にも雪が降り出しそうに白く、空気はまるで研いだように冷たい。馬車は田舎の一本道を、ガラガラと大きな音を立てて走っていく。 道の両脇には黒い葉の針葉樹が植わり、時折その間から、赤い煉瓦の建物や、主人と歩く大きな犬、小川の上の古い石橋などが見える。

 レインは老人の話を聞きながら、それらの景色を眺めていた。
 国境地帯を越えてすぐ立ち寄った教会で、お古の長靴や靴下をもらい、体も洗わせてもらったので、みすぼらしい格好ながらも、 風が髪を抜けていくのが気持ち良かった。

 「アンブル一の林檎」に同意して頷いた時、荷台の方から会話が聞こえてきた。

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