ギャイン!

 異様な悲鳴に、レインが目を開けると、狼が宙を舞っていた。

 目の前に迫っていた二頭のうちの一頭は、背後から伸びてきた長い鞭に絡め取られ、そのまま、横殴りに 隣の一頭にぶつけられた。激突した二頭は血を吐きながら宙を舞い、地面に落ちた時にはもう、ぴくりとも動かなかった。

 そのまま鞭は、縦横無尽に狼たちの間を駆け巡った。電光の如く速く、蛇の如く自在に閃く鞭から、逃げられる狼はいなかった。 そこへさらにオリザの銃弾が加わり、瞬く間に辺りは、狼の屍累々となった。

 最後の一頭が倒れると、鞭はしなやかに空を裂き、狼を追うように道の脇から現れた、一人の少年の袖口に消えた。

「乃季夜(ノキヤ)!」

 手首を戻しながら、オリザは振り向いた。

「怪我はありませんか、ボス」

 ノキヤと呼ばれた高校生くらいの少年は、頬を真っ赤に上気させながらこちらに駆け寄ってきた。紺色のダッフルコートのトグルを上から下まで留め、 前髪はきっちり切り揃えられている。白い額に大粒の汗が浮かんでいるが、それは鞭を振り回したからと言うより、 ここまで全速力で走ってきたからのようだった。

 何故ここに? と言うオリザの問いに、息も切れ切れにノキヤは答えた。

「国境地帯で銃撃戦があったと聞いたので、心配になって荼毘人(ダビド)と車で来たんですけど…… 道を一本間違えてしまって…… 迷っていたら狼に 襲われて、迎え撃ったらこっちに逃げられてしまって…… まさかボスたちがこっちにいるとは……」

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