理解した、という印に、レインは頷いた。

 一応言葉は通じるのか、と男は顎に手をやり、レインをじっと見つめた。そして、尋ねた。

「使骸職人の元に身を寄せたと聞いていたが。捨てられたのか?」

 即座に、レインは思いきり首を横に振った。

「それなら、家出か。家に帰るのが嫌で、こんなところで死にかかっているのか」

 レインは俯いた。

 ルツやマリサに会いたい。その気持ちは、間違いなくある。しかし、同時に、クレーター・ルームへは戻りたくない。人間しかいない、 人間が主人の、世界へは。
 自分が行きたい場所は、別にあるのだ。己の胸の内にあるようで、果てしなく遠い、何処か。けれど自分でもそこが何処か分からず、 ただひたすらに、あの鉄条網越しに出会った少年の瞳の中、深い森を彷徨い続けている。

 とても言葉では説明出来そうにないその気持ちが、霧のように染みついた胸を抱いて、レインは黙っていた。

 その様子を見ていた男は、やがて言った。

「死ぬつもりでないなら、俺と一緒に来い」

 レインは顔を上げた。男は無愛想な顔でこちらを見下ろしていた。

「お前が幾らか普通の人間より獣に近くても、こんなところで一生を生きていくのは、不可能だぞ」

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