木立の間から現れたのは、Pコートに白いマフラーを腰の辺りまで垂らし、両手をポケットに突っ込んだ、背の高い影だった。 遠目には性別が分かりにくかったが、近づいてきたのを見ると、男と同年代の女性だ。硬い顎の輪郭や目元など、どことなく男に似ている。

「オリザ」

 男は表情を変えず、呟いた。
 女は寒さで色の失せた唇を、開いた。

「兄さん」

 咄嗟に男の後ろに隠れたレインは、そのまま女が困惑したような表情で、数秒間停止するのを見た。
 くっきりと形の良い目蓋の下で、瞳が動き、たった今レインたちが歩いてきた荒野へ、向けられた。 信じられない、と唇が動いた。

「……この地雷原を抜けてきたのか?」

 ジライゲン?

 聞き慣れぬその言葉を、レインは頭の中で反芻した。この荒野の、名前だろうか。

 と、男がリュックを背負い直そうとして屈み、その背中越しに、レインと女の目が合った。

 女は睫毛を震わせ、目を見開いた。

「まさか、この子を先に歩かせたのか?」

 リュックの中身を詰め直しながら、男は低い声で言った。

「国境監視兵に見つからず国境を越えられる場所は、ここだけだ」

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