と、背後で微かな物音が聞こえ、コンは顔を上げた。

 見れば、先に吹っ飛ばしたテロリストたちの内二人が、目を開けていた。瓦礫の中へぼろ雑巾のように打ち捨てられた、黒ずくめの若い男に、 ウェイトレスの少女。絶縁手袋をむしり取られたドレッドヘアの男も、両手を真っ赤に染めて気絶しているが、息はある。

 悲嘆に暮れる無力な少女よりも先に、彼らの息の根を止めるべきだ。そう判断したコンは、彼らの方へ足を向けた。剥離した壁石の中に横たわったまま身動き一つせず、 目だけでこちらの隙を窺っていた少女が、顔を強張らせた。

 それもそのはず、彼女の両足は無残に折れ曲がり、恐らくは内臓も幾つか破裂したのだろう、 口から血を流し、とても動けそうにない。 黒ずくめの男の方は幾らかましなようで、這って動こうとしているが、 下半身がひっくり返ったテーブルの下敷きになっている。オリザは唯一まともに動ける人員だが、アネサにがっちり組みつかれている。 城壁の外にはまだワゴン車の姿があるが、彼らがそこまで辿りつくことは、とても不可能だろう。

「ちくしょう」

 と、小さな声が聞こえた。コンは声の聞こえた方を目で追い、瓦礫から這い出せずに頭を垂れる、黒ずくめの男を見下ろした。

 黒ずくめの若者―― ラキは、真っ赤に血走った目を上げた。

「……ちくしょう…… この、人喰野郎が!」

 止せ! と同時にトリィとオリザが、叫んだ。

 ラキの右手に握られたスイッチを見て、おや、とコンが思う暇もなかった。
 ラキの親指が、スイッチを押した。

 「コン様!」と言うアネサの叫び声は、爆発音にかき消された。

 店内に仕掛けられたダイナマイトが爆発し、店全体が粉々に崩壊していく中で、コンは見た。

 事切れたはずのノキヤが、悲鳴を上げて蹲るミアンを抱き寄せ、その上に覆いかぶさるのを。しっかりと抱き合った二人に、無数の瓦礫、 粉塵、巨大な天井の梁が降り注ぐのを。

 その光景に目を奪われたコンの足が、一瞬、止まった。グールの俊足を以ってすれば、爆発空間から脱出することなど余裕であったのに、 その一瞬の停止が、命取りになった。

 空色の髪をしたグールの姿は、崩落してきた天井全体に押し潰されるようにして、消えた。
 勿論彼だけでなく、その場にいた全ての人間、オリザもアネサも、トリィもエマオもラキも、全員。

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