過去にほんの数日滞在しただけなのに、その家がある街を見下ろしただけで、懐かしさで胸がいっぱいになった。

 巨大なクレーターの中に聳え立つ、七体の緑の巨人。その隙間を埋めるように群れ建つ、近代的なビルや家屋。 ドーム越しに降り注ぐ柔らかな日差し。宙を走る列車。

 中央駅の賑わいにも、その周辺のショッピングモールの人ごみにも、人々の平和な日常が満ちていた。 その中を、歩ける幸せ。バスに乗り、記憶の中の道を辿るに連れ、他愛もない幸福は膨らんでいく。 まるで、色とりどりの風船のように。

 そして、川べりに立つ小さな家の屋上に、懐かしい人影を見つけた時、ロミの風船ははちきれんばかりに膨らんだ。

「ルツさん、マリサちゃん!」

 胸に息を吸い、思い切り叫ぶと、クロッカスの球根を植えていたルツが弾かれたように立ち上がり、こちらを見下ろした。 その顔に、驚きと喜びの表情が広がる。泥だらけの軍手をはめた手で、待ってて、と玄関を指差すと、 すぐにその姿は消え、数分後、玄関の扉が開いた。

「ロミ! タキオ!」

 サンダルで駆けつけるなり、ルツはタキオの大きな体を抱きしめた。タキオはびっくりした顔を見せたが、すぐ笑顔になって、 相手の背中に腕を回す。
 ロミは、「お姉ちゃん!」と呼んで飛び込んできたマリサの小さな体を、思い切り抱き締めた。

「ただいま!」

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